楽譜に潜む意外なワナ、それは……
楽器を演奏して過ごす時間は楽しいものですが、悩みもまた尽きません。
その中で「伏兵」ともいうべき、地味ながら厄介な存在があります。
それは、「休み」です。
ここでいう「休み」というのは、練習の合間の休憩ではなく、「長休符」のこと。
トランペットなどの管楽器の楽譜では、10小節とか16小節とか、音を出さない小節数が書いてあるのをよく見かけますよね。
あれを「長休符」というのですが、実際の練習の時は、
「A(練習記号)のところ、トランペットはどんなフレーズ吹いてる?」
「あ、そこは休みです」
といった感じで「休み」と言うことが多いので、ここでも「休み」と呼ぶことにします。
さて、1曲吹くたびにかなりの消耗を強いられるのがトランペットという楽器。
休みのところは音を吹かなくていいのですから、休みは長ければ長いほど良い――
と思いたいところですが、実際はそうでもありません。
どんなに長い休みでも、必ず終わりがやってくる――
まるで、あの楽しかった夏休みのようですね。
そう。夏休みが終わったら当然、また学校へ行かなければなりません。
楽譜上の「休み」も同じ。
終わればもう一度演奏に「入らなければ」いけないのです。
休みがいつ終わったのかわからなければ、入りようがないですよね。
ですから、休みの小節数を数えておく必要があります。
これが、簡単そうで意外と難しい。
お恥ずかしい話ですが、私は今でも「入る」タイミングをよく間違えます……
数を数える、という単純な行為なのに、なぜこんなにもよく間違えるのか。
私にも、よくわかりません。
たぶん、他のパートの音が耳に入ってくるために、
意識がそちらに向いてしまうからなのでしょう。
人間の集中力なんてそんなもの、なのかもしれません。
というわけで、休みの数え方、もとい、間違えない「入り方」についてお話しします。
休みを数えるときのポイント
①最初は小節数を指で数える
②8小節単位を意識して他のパートのメロディを聞く
③他の楽器の音を聴いて、わかりやすい「きっかけ」を覚える
ポイント①:小節数を指で数える
楽譜が初見のとき、特にその曲自体を知らないときは、
とにかく楽譜通りに吹いていくしかありませんから、休みの小節数も数えるしかありません。
しかし頭の中だけで数えようとすると、びっくりするくらい間違えます。
「1……、2……、3……、4……、5……、あれ? 次5だっけ? 6だっけ?」
こんなことはザラです。
年をとると、なおさらです(泣)。
そこで、確実な方法があります。
原始的なやり方ですが、「指で数える」ことです。
1小節数えるごとに指を折っていけば、頭の中で小節数を忘れても指が覚えてくれています。
また同時に、指を動かすことでより強く数字を意識でき、間違えにくくなります。
「カッコ悪い」と思えるかもしれませんが、入りを間違える方がずっとカッコ悪いです。
ここは、確実な方法を選びましょう。
ちなみに、オーケストラのトランペットの楽譜では、数十小節という休みが当たり前のように出てきます。
指を折って数えないと、とてもじゃないですが入れる気がしません……
ポイント②:他のパートのメロディを聞く
とはいえ、本番のステージで小節数を指折り数えるのは、できれば避けたいところ。
練習の間に、指を使わなくても確実に入れるようにしておきましょう。
そのために重要なのは、休みの間に他のパートの音をよく聴くことです。
自分のパートが休みでも、楽曲の中ではメインとなるメロディ(主旋律)が続いています。
休みを指で数えながら、主旋律のパートを探し、そしてよく聴きましょう。
吹奏楽ではアルトサックス、オーケストラではヴァイオリンが主旋律を担当していることが多いです。
もう一つ意識すべきことがあります。
それは「8小節のまとまり」です。
長休符の小節数は、「8」「16」「24」というように、8の倍数になっていることが多いです。
練習記号があって、その区間がまるごと休みのときは小節数が書いてありますから、
「8」「8」「8」といった感じで並んでいることもあります。
この「8小節」が、大事なポイントです。
なぜかといえば、「8小節」というのは、フレーズを作る際に一番収まりが良い長さだからなのですね。
例えば16小節の休みの場合、初めの8小節はアルトサックスがメロディ、
次の8小節はフルートがメロディを吹いている、なんてパターンが多いわけです。
ですからこの場合、「フルートが入ってから8小節で入れば良い」と覚えておけば、
実際に数える小節数は半分で済むわけです。
この「8小節」という単位は、楽曲を理解する上でも重要なことですので、
休みだけでなく、自分がフレーズを奏でる際にもぜひ意識してみてください。
ポイント③:「きっかけ」を覚える
ここまで来たら、もうワンステップ進んで、さらに楽に入れるようにしましょう。
自分が休みの間、主旋律だけでなく、もっと他のパートにも耳を傾けてみるのです。
例えば、打楽器。
自分が入る小節の1小節前、「シンバルの音が鳴る」ことに気づけば儲けもの。
「シンバルが入った次の小節」に自分が入れば良いのですから。
こういった特徴的な「入りのきっかけ」を見つければ、もう数える必要はなくなります。
「え? じゃあ最初からひたすら『きっかけ』を探していればよくない?」
と考える方もいるかと思いますが、それはちょっと考えものです。
さっきのシンバルの例えでいえば、「自分が入る1小節前」以外にも入っている場合があります。
先ほどの例で考えると、もし、「フルートが入る1小節前」にも同じくシンバルの音があったとしたら、
まだ曲に慣れていないうちは「8小節も前に」間違えて入る危険性があります。
「休みの初めの8小節間はアルトサックスが、次の8小節間はフルートが主旋律」
ということを知っていれば、間違える恐れはありません。
それ以前に、楽曲によっては特徴的な「きっかけ」がない場合もあります。
もっとも、吹奏楽部の場合は本番までに何度も合奏を繰り返すでしょうから、
本番を迎える時には楽曲全体をほぼ覚えてしまっていると思います。
ここまでご紹介した方法は不要になるかもしれませんが、
自分が入るタイミングを早く掴むための近道ですし、楽曲理解の助けにもなると思いますので、良ければ参考になさってみてください。
やめた方が良い数え方、入り方
①足で数える
②隣の人に合わせて入る
悪い例①:足で数える
床を足で踏みようにして休みを数えている人は結構います。
休みだけでなく、自分が吹く時に足でリズムをとる人も多いです。
しかし、この場合当然音がしますし、ステージマナーとしても良くないので、
これが癖になっている人は直した方がいいでしょう。
悪い例②:隣の人に合わせて入る
「そんなカンニングみたいなことをしている奴は、いったいどこの誰だ!?」
はい、私です。高校でも大学でも、よくやっていました。
もちろんやめた方がいいです。
同じ楽器でも、別のパートであれば当然楽譜は違いますから、同じタイミングで入るとは限りません。
それに、隣の人が間違っている場合もあります。
まぁ、「みんなで渡れば怖くない」という考え方もありますが……
他人に頼らず、自分で入り方を覚えましょう。
最後にもう一つだけ、大事なことをお話しします。
それは、「間違えるのを恐れ過ぎない」ことです。
入りのタイミングを間違えるのは確かに恥ずかしいですが、
聞いたこともない曲を、楽譜を見ただけで最初から完璧に演奏できる人なんて、ほとんどいません。
プロの奏者だって、楽器を始めたばかりの頃はそうだったはずです。
練習でいくら間違っても、本番で正しく吹ければいいだけのこと。
そのために練習があるのです。
たとえ入るタイミングが早すぎても、「今度は間違えないぞ」と気持ちを引き締めれば、確実に次につながっていきます。
これは、入りのタイミングだけでなく、演奏全体にも言えることです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回の私の話が、皆さんの楽器演奏に少しでも役立てば嬉しいです!