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指揮者は楽?いらない?知られざる意外な実態!

指揮者は楽な仕事? 実はこんなに大変!
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2時間、腕を振り続けられますか?

皆さん、こんにちは!

吹奏楽部で練習に励んでいる皆さんは、合奏で指揮者にいろいろと言われたことはありませんか?
「入るのが早い」「タテが合ってない」「ピッチが高い」「もっと音鳴らせ」「楽譜に書いてある通りにやれ」「もっと練習しろ」「パート練習ちゃんとやったのか」「その髪型似合ってないぞ」……
書いていて、私もだんだん嫌な気持ちになってきました。あと、髪型はほっといてください。
みんなが聞いている前であーだこーだ言われると、「簡単に言うけど、演奏するのは大変なんだよ……いいよなぁ指揮者は。棒振ってるだけでいいんだからよぉ」などと、悪態の一つもつきたくなります。
よくわかります。

楽器経験のない人から見るとなおさら、指揮者というのは「一番楽」な役割に思えるようです。
一見、指揮者は黙って指揮棒を振っているだけですから、楽器を演奏している人に比べると楽そうに見えるのも無理はありません。
私も同じ職場の先輩に「指揮者って楽だよな。俺にも出来そう」と言われたことがあります。
楽器をやったことのない人にそう言われるのはさすがに心外なので、指揮者の役割や大変さについて一生懸命説明したのですが、イマイチ分かってはもらえませんでした。

「そんなこと言ったって、棒振ってるだけってのは事実だろ? やっぱ楽じゃん」と思う方もいらっしゃるでしょう。
では、ちょっと想像してみてください。
あなたはオーケストラの臨時指揮者として、1曲指揮を振ることになりました。
曲の長さは5分間とします。
一定の間隔で正確に、5分間、腕を振り続けることができるでしょうか。
曲の拍子は四分の四拍子、テンポは120BPMとします。
120BPMというのは、簡単に言うと、1秒間に2回四分音符を奏でる速さです。
ですから、1秒間に2回腕を振ればいいわけです。
この際、振り方はどのような形でも構いません。
その代わり、決してズレてはいけません。
速くなっても、遅くなってもアウトです。

さて。
あなたは、無事に1曲、最後まで指揮を振り続けることができるでしょうか?
実際に、時計の秒針を見ながらやってみてください。

「できたぜ! へっ、こんくらい、本気になりゃあ朝飯前よ!」という江戸っ子気質の方、お見事です。
ところで、実際のオーケストラの演奏会は、1時間半から2時間半くらいの長さであることが多いです。
さて、また想像してみてください。
さっきと同じ――1秒間に2回の間隔で、腕を振り続ける――ことを、2時間続けてできますか?

もちろん、曲と曲の間は少し時間が空きますし、メインの曲の前には休憩が入ることも多いです。
それを考えた上でも、一回の演奏会の間、ずっと腕を振り続けるというのは、相当に過酷だということが想像できるのではないでしょうか。

「棒を振るだけ」といっても、決して楽なことではありません。
そして、指揮者には「棒を振る」以外にも、たくさんの大事な役割があることをご存じでしょうか。

指揮者は演奏のコーディネーター!

指揮者は、どうして必要なのでしょうか。
一人で楽器を演奏する場合、当然ですが、指揮者は必要ありません。
一人でギターを弾いている時に目の前で棒を振られたら、気が散るだけですね。
しかし、吹奏楽やオーケストラのように、数十人の人間が集まって一つの楽曲を演奏する場合、いろいろな問題が生じてきます。
「こういうふうに演奏したい」というイメージが、個々人によって異なってくるからです。
曲のテンポひとつとっても、速めのテンポを好む人もいれば、ゆっくり演奏したい人もいます。
また、同じ曲でも楽器によって難易度が違いますし、演奏者の技量もまちまちですから、あまり速いテンポで演奏するとついていけない人が出てきてしまいます。

言いたい放題の演奏者
言いたい放題の演奏者たち


では、どうしたらいいのでしょうか。
「このテンポで演奏しよう!」と、鶴の一声を放ってくれる人がいればいいわけですね。
それが、指揮者なのです。

指揮者の「鶴の一声」
指揮者の「鶴の一声」


この際大切なのは、きちんとした根拠をもとにテンポを決める、ということです。
メンバーから「速すぎない?」とか「もっと遅い方がいい」といった異論が出たときに、「こうこうこういう理由で、このテンポが一番いいんだよ」と説明して、「なるほど。それじゃ仕方ないや」とメンバーを納得させる必要があります。
担当楽器も、演奏の好みも、技量もバラバラなメンバーをまとめ上げ、一つの楽曲の演奏を完成に導く「コーディネーター」のような役割こそ、指揮者の一番大きな仕事だといえるのです。

指揮者の役割いろいろ

数十人の演奏者が奏でる数十もの音をまとめ上げ、演奏をまとめ上げるのが指揮者の仕事だとお話ししました。
そのための、指揮者が成すべき具体的な役割について見ていきましょう。

指揮者の具体的な役割

①拍子・テンポを示す
②音の強弱を指示する
③ハーモニーを整える
④表現のニュアンスを伝える

①拍子・テンポを示す

最初にお話ししたように、指揮棒を振るのは極めて重要で難しい役目です。
これによって、曲の拍子やテンポを演奏者全員に分かりやすく示す必要があります。
指揮がズレれば、演奏者全員のテンポがバラバラになります。
なぜなら、指揮がズレた場合、「ズレた指揮に合わせようとする人」と「ズレないように元のテンポを守ろうとする人」が出てくるからです。
演奏者は一度ズレたことに気づくと、誰に合わせて演奏していいかわからなくなります。
私も何度か、本番でこのような場面に出くわしたことがあります。
ハッキリ言って、冷や汗モノです。

「じゃあやっぱり、指揮者いない方がいいんじゃね?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
確かにテンポだけなら、指揮者なしで合わせることは不可能ではありません。
しかし、指揮者がいないとどうしても演奏はズレていきます。
演奏者の心理として「遅れてはいけない」という気持ちが強く働くため、全体としては演奏が進むにつれて逆にどんどん早くなってしまう傾向があるのです。
なので、指揮者はやっぱり必要であり、指揮が決してズレないようにしなければならないということになります。

②音の強弱を指示する

演奏する上で、各楽器の音量バランスはとても重要です。
メインメロディなどの聴かせたい大事なフレーズが他の楽器の音に埋もれてしまっては、演奏が台無しになります。
きれいなハーモニーを響かせるためにも、音量は大切な要素です。
楽曲上でも盛り上がる部分は大きく、落ち着く場面は小さく、といったメリハリがあります。

演奏者は、楽譜を読むことで、どこを小さく、どこを大きく演奏すべきかを知っています。
ただ、演奏全体の中で自分の音の大きさがどの程度なのかは、知る術がありません。
楽譜に「フォルテ」と書かれていても、具体的に「どれくらい大きく」音を出せばいいのかはわからないのです。
指揮者は全体の音を聴きながら、「どの楽器が」「どの部分を」「どれくらいの大きさで」演奏すればいいのか、常に把握しておく必要があります。
そして「もっと大きく」「もっと小さく」といった指示を、リアルタイムで的確に出さなければなりません。

③ハーモニーを整える

ハーモニー(和音)は、音楽の中で重要な要素です。
一つ一つの楽器のピッチ(音程)がズレていては、きれいなハーモニーになりません
その上、音楽には「調性」というものがあります。
調性というのは、簡単に言うとカラオケの「キー」のようなもので、日本語では「ハ長調」や「ニ短調」といった用語で表されます。
調性と和音の関係については、詳しく説明すると難しい話になってしまうため割愛しますが、つまりはキーが変わると、和音を形作る一つ一つの音の高さも変えなくてはならなくなる、ということになるのです。

指揮者はこうしたことを踏まえた上で、各楽器のピッチに耳を傾け、和音がきれいに響いているかどうか、濁っているとすればどの楽器のピッチがズレているのかを判断し、指示を出します。
楽器によって調性が違いますので、合奏練習やリハーサルの際には、指揮者は原則としてドイツ音名で指示を出します。
ドイツ音名については、こちらの記事で詳しく書いています。

④表現のニュアンスを伝える

例えば、歌の場合。
歌い手によっていろんな歌い方がありますよね。
しっとりとした歌い方、リズミカルで軽快な歌い方、激しく叫ぶような歌い方……歌い手の表現によって、聴き手の受ける印象はまるで異なってきます。

吹奏楽やオーケストラのように大人数で演奏する場合、こうした表現のニュアンスも統一しておく必要があります。
楽譜には、それぞれの音符をどのように演奏するかという指示が細かく記載されています。
例えば「スタッカート」という記号は、音符を「短く切る」という意味です。
しかし、「短く」といっても、演奏者によってその感覚は違いますし、曲によっても異なってきます。
「どれくらい短くすればいいか」を決めてそれを演奏者全員に伝えるのは、やはり指揮者の役目ということになります。

楽譜には「発想記号」というものもあります。
これは、演奏のニュアンスを言葉で表したもので、「dolce(ドルチェ)」は「柔らかく」、「espressivo(エスプレシーヴォ)」は「表情豊かに」といった意味です。
音を言葉で表すにはどうしても限界があり、個々人によって受け取り方が違ってくるので、やはり指揮者が「もっとこういうふうに演奏して」と指示するわけです。
同じ楽曲を同じオーケストラが演奏しても、別の指揮者が振ると全く印象が違う、なんてことがあるのはこのためです。

指揮者に求められる能力とは?

上で挙げた4つの要素は、演奏中だけでなく、合奏練習やリハーサルを通じて演奏者に適宜伝えていくことになります。
合奏練習の進め方や指示出しも、指揮者の大きな役割。
むしろ、そちらの方に多くの労力が費やされています。

繰り返しになりますが、曲の演奏の全体像を作り上げ、本番に向けて演奏を作っていくのが指揮者の大きな仕事。
それをこなし続けていくためには、実にさまざまな能力が必要になってきます。

指揮者に必須の能力

①体力
②音楽知識
③正確な拍子・テンポ感
④楽器の音の高低を聞き分ける音感
⑤コミュニケーション能力

①の「体力」というのは、意外に思えるかもしれません。
しかし、最初にお話ししたように、正確に指揮棒を振り続けるだけでもかなりの体力を消耗します。
拍子もずっと四拍子、ということはなく、曲の途中で三拍子に変わったり、また四拍子に戻ったり、ということが頻繁にあるのです。
これを間違えると演奏全体がぐしゃぐしゃになってしまうのは言うまでもありません。
また、演奏全体に常に耳を澄ませ、テンポが乱れそうになったり、音量バランスが崩れそうになったりしたらすかさず指示を飛ばして修正する必要があります。
ですから、曲の初めから終わりまで、ずっと集中力を保っていなければなりません。
演奏者には休符という休みがありますが、指揮者に休みはないのです。
休みが長いと、それはそれで大変な面もありますが……

地元のプロオーケストラの事務局の方にお話を聞いたところ、オーケストラの指揮者はみんな、日頃からランニングなどのトレーニングを行っているとのこと。
まさに「体が資本」の仕事なのです。

②の音楽知識については、まず楽譜が読めなければ始まりません。
その上で、楽譜から演奏のニュアンスを読み取り、演奏者に伝えるという役割があります。
どの演奏者よりも広く深い音楽知識を持っていなくてはいけないのです。
このため、演奏会やリハーサルがない日でも、日々勉強と楽曲の研究が必要になります。

③④は言わずもがな、ですね。
これがないと演奏者に的確な指示を出すことができません。

⑤のコミュニケーション能力は、意外に重要なポイントです。
誰よりも知識があり、楽曲への理解力があって、適切な指示を出したとしても、演奏者が従ってくれなければ意味がありません。
オーケストラの指揮者の仕事は、初めて楽団員と顔を合わせたときの信頼関係の構築から始まります。
指揮者が高圧的な態度で接すれば、楽団員は当然反感を持ちます。
逆に卑屈すぎても、楽団員に軽く見られ、指示に従ってもらえなくなります。
昔の高名な指揮者には、怒声を発して楽団員を無理矢理従わせていた人も多かったようですが、近年の世界的な指揮者の多くは、奏者との円滑な信頼関係を築くコミュニケーション能力にも長けているようです。
吹奏楽部の指導者にとっては、一番大切な能力かもしれませんね。

指揮者もつらいよ

ここまで、主にオーケストラの指揮者の役目についてお話ししてきました。
指揮者の仕事って、かなり大変ですよね。
演奏者の立場で、指揮者にいろいろ小言を言われるとイラッとくることもあるかと思いますが、指揮者は指揮者で苦労してらっしゃいますので、あんまり悪口言わないようにしてくださいね。

余談ですが、私は高校生の時、吹奏楽部でトランペットを吹いていました。
3年生のとき、ある有名オーケストラに所属する方が、臨時の講師として一日だけ私たちの合奏を指導してくださったことがあります。
その先生が指揮台に立ち、指揮棒を振った次の瞬間、私たちの演奏が、それまでとはまるで別モノのようになったという鮮烈な体験をしました。
詳細についてはこちらの記事で書いています。

いささか長くなってしまいましたが、指揮者の重要性について知っていただくきっかけになれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ABOUT ME
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古閑らいこう
トランペット歴25年。小学校でマーチングバンド、高校で吹奏楽部、大学で学生オーケストラに所属し、トランペットを担当。現在は地域の子どもたちの指導にあたっているほか、ビッグバンドのコンサート等で年に数回演奏を披露。

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