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「死ぬまで」練習する意味とは?吹奏楽部員の自殺で考えたコト

吹奏楽部の過酷な練習に耐えて得られるモノって
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尊い命が失われた悲劇

皆さん、こんにちは。
今回は悲しいニュースに接したので、ちょっと重い話題になります。
吹奏楽強豪校として知られる高校の吹奏楽部の2年生が、飛び降り自殺をしたというニュースです。

 千葉県柏市の市立柏高で2018年12月、吹奏楽部に所属する2年の男子生徒が自殺した。市の第三者委員会が今年3月末に公表した調査報告書は、自殺の直接的な原因は特定できなかったとする一方、背景として部活の長時間練習を挙げ「授業時間と合わせると過労死ラインをはるかに超える。過多であったことは明らかだ」などと指摘。吹奏楽強豪校の過酷な練習実態を明らかにしただけでなく、学校側のずさんな対応も批判した。

引用:47NEWS

未来ある高校生が自ら命を絶つというのは、これ以上ないくらいの悲劇です。
とりわけ、吹奏楽部に所属している、あるいは中学・高校時代に所属していたという人にとっては、悲しさが一層際立つ事件だと思います。
部活で厳しい指導を受けていた皆さんの中には、「他人事とは思えない」と考える人もいるのではないでしょうか。

はじめに気を付けておきたいのは、前掲したニュースにある通り、市の第三者委員会の調査報告書では「自殺の直接的な原因は特定できなかった」としていることです。

 報告書は、男子生徒の自殺の原因とみられる要素として「学業不振、異性問題、教職員からの指導、いじめ問題、部活への参加」と複数挙げたが、「どれが直接的な原因になったとは特定できない」と結論付けた。その上で、当時の生徒が自身の悩みに適切な対処ができなくなるまで思考力や集中力などが低下していたと指摘。その要因として強調したのが、部活の長時間練習だった。

引用:47NEWS

報告書の記述をもとにすると、吹奏楽部での厳しい練習が自殺の直接的な原因とは言い切れないものの、連日の長時間の練習が、生徒の「生きるための」正常な思考力や判断力を蝕み、自ら死を選ばざるを得ないような心身の状態に陥らせた要因の一つである――と考えられます。
この記事では、そうした前提の上で、吹奏楽部における指導の在り方について思うところをお話ししていきます。
事件が起こった学校や、吹奏楽部の指導者を一方的に非難する意図は一切ありませんので、ご了承ください。

死に至るほどの練習とは?

よく耳にするのは、体育会系の部活、特に野球の甲子園大会をはじめとする全国大会の強豪校で、想像を絶するような厳しい指導が行われていた、という話です。
大人でも音を上げそうなその過酷さに、「ブラック企業」をもじった「ブラック部活」という言葉までが世に広まりました。
しかし、いわゆる「KKコンビ」を輩出したPL学園高校野球部が休部となったことに象徴されるように、現在では部活でそのようなスパルタ指導を行う学校はかなり減った、といわれています。

さて、このたび話題となっている高校の吹奏楽部では、いったいどれくらいの練習時間が課されていたのでしょうか。

 部の正式な練習時間は平日が午後4~7時、休日は午前8時~午後5時ごろとされる。だが報告書によると、時間内に終わらないことが多く、休日は午後9時を過ぎることも。さらに「自主練」として朝練や昼練、居残り練習にもほとんどの生徒が参加し、事実上義務付けられていた。

 結果として平日で約5時間半、休日で約11時間の練習が行われていたと認定。「平日で2時間程度」などとした国の文化部ガイドラインを大きく超過していた。1カ月で計192・5時間となり、生徒が受ける授業時間(平日7時間と仮定)も含めると計346・5時間に。これは、労働者の「過労死ライン」とされる1カ月当たりの総労働時間(240時間)を大幅に上回っていた。

引用:47NEWS

「過労死ライン」を大幅に超える……これでは「ブラック部活」と呼ばれても納得せざるを得ないように思えます。

しかし、吹奏楽部経験者ではない人にとっては、ちょっと想像しにくい過酷さかもしれません。
「運動部なら長時間厳しい練習をするのは分かるけど……吹奏楽部でそんなに長時間、どんな練習をしているの?」
そんなふうに思う人も多いのではないでしょうか。

その答えは、全国の多くの吹奏楽部が目標としている「全日本吹奏楽コンクール」にあります。

なぜそれほど多くの練習をするのか?

このたび話題となっている高校の吹奏楽部は、吹奏楽コンクール全国大会常連校で、最高賞である「金賞」もこれまでに数多く獲得している超強豪校です。
「全国大会で金賞」というのがどれくらいすごい成績なのか――それこそ吹奏楽部の部員か出身者でなければ想像がつかないことでしょう。
ちなみに、昨年の吹奏楽コンクール全国大会で金賞を獲得した高校は、9校でした。
これを単純に高校野球に置き換えると、甲子園大会で準々決勝に進出するのとほぼ同じ成績、ということになります。
甲子園でベスト8」といえば、生半可な練習では絶対にたどり着けない領域だということが想像できるのではないでしょうか。

また、高校野球では甲子園大会にたどり着くまでにいくつもの大会を勝ち抜かなくてはならないのと同様に、吹奏楽コンクールも「地区大会→都道府県大会→支部大会→全国大会」と、それぞれの大会で上位大会への出場権を勝ち取る必要があります。
全国大会には出場できなくても、少しでも上位の大会に進出し、そして少しでも上位の賞を獲得したい――多くの学校の吹奏楽部ではそうした目標をもって、一生懸命練習に励んでいるのです。

それでは、吹奏楽コンクールで上位の成績を収めるためには、どんな練習をすればいいのでしょうか。
……それが分かれば苦労はしない、ということになってしまうのですが、おおむね共通して言えることはあります。
それは、「タテ」と「ピッチ」を合わせることです。

「タテ」というのは、わかりやすく言えば「タイミング」のことです。
例えば、「5人くらいで手拍子をする」のを想像してみてください。
指揮者の振る棒の動きに合わせて、一定間隔で「パン、パン、パン、パン」と手をたたくのです。
いきなり5人で手拍子の音を完璧に揃えるのは、かなり難しいですよね?
でも、10回練習したら?
50回練習したら?
100回練習したら?
練習するたびに、音がぴったりと揃ってくることが想像できるのではないでしょうか。

吹奏楽の演奏では、楽譜に書かれたリズムに従って音を出します。
当然、手拍子のように「パン、パン、パン、パン」といった単純なリズムだけでなく、「パンパ、パンパ」とか「パパッパ、パパッパ」とか「ンパ、ンパ、パン、パパ」とか、複雑なリズムも頻繁に出てきます。
でも、先ほどの手拍子の例えと同じく、複数人で同じ動きをすることが非常に多いのです。
ですから、何度も何度も練習を繰り返して、みんなが音を出すタイミングをぴったりと揃えられるようにするわけです。

これに対して「ピッチ」というのは、「音程」のことです。
音程というとカラオケの音程を想像する人が多いと思いますが、吹奏楽でいう音程はもっと細かく、かつ複雑です。
複数の楽器で異なる高さの音を同時に出したときの音の重なりを「和音」といいます。
ハーモニー」や「ハモリ」と言った方がわかりやすいでしょうか。
このハーモニーをきれいに響かせるためには、それぞれの楽器の音程を細かくコントロールしなければなりません。
きれいな響きを得るための音程感覚を身に付けるためには、やはり何度も繰り返し練習することが必要になります。

この「タテ」と「ピッチ」を合わせる練習、そして音の大きさ・テンポなどを楽譜に書かれた指示通りに表現する練習が、コンクールで曲を演奏するための基本となります。
というより、ほとんどそれが全て、と言ってもいいかもしれません。
これまで挙げた要素を完璧に近いレベルでこなせれば、吹奏楽コンクールでかなり上位の大会まで進出できるはずなのです。
といっても、吹奏楽コンクールの大規模編成では、50人前後の奏者がステージに立ちますから、一口に「タテとピッチを揃える」といっても大変な労力がかかることになります。

50人で5分間、手拍子を完璧に揃え続ける」ことを想像してみてください。
それだけでも大変なのに、吹奏楽ではもっと複雑なリズムがありますし、ハーモニーも合わせなくてはいけません。
しかも、コンクールでの演奏時間は課題曲・自由曲を合わせて12分以内。
「強豪」と呼ばれている学校の吹奏楽部が、ブラック企業に例えられるほどの長時間練習を部員に課す理由が、少しは理解できるのではないでしょうか。

死ぬまで練習して得るモノとは?

吹奏楽コンクールで輝かしい成績を収めるには、膨大な時間を費やさなければならないということがおわかりいただけたかと思います。
しかし逆に言うと、「コンクールの上位を目指したいなら、時間さえかければ何とかなる」ということでもあるわけです。

意外かもしれませんが、吹奏楽コンクールでは個々人の演奏の「上手下手」は、ほとんど問題にされません
演奏曲の中にソロが含まれていれば別ですが、そのソロにしても何十小節もの長さにわたることは滅多にないのです。
もし仮に、部員の中にプロ並みに演奏が上手い人が何人もいたとしても、それだけでコンクールで上位に入れるなんて保証はどこにもありません。

今回話題になっている高校とは別の強豪校では、吹奏楽部の新入部員の約半数が初心者だという話がありました。
それを全国大会金賞まで導く指導者の力量がすごい……と思われがちなのですが、裏を返せば「部員の半分が下手でも全国大会で金賞が取れる」ということになります。
もちろん、そうした部活ではすさまじいまでの練習量が毎日のように課されていることは、想像に難くありません。

そこまでして目指す「吹奏楽コンクール全国大会金賞」とは、いったいどれほどの価値があるのでしょうか。
単純に言ってしまえば、「名誉」と「達成感」が得られるということです。
当然ながら、そこまでの練習を経て到達できた境地ですから、その達成感たるや、一般人の想像をはるかに超えるものであることは間違いないでしょう。

しかし、身も蓋もないことを言ってしまうようですが、「吹奏楽コンクールで素晴らしい成績を収めた吹奏楽部のメンバー」という肩書で、進学や就職が有利になるとはあまり思えません
音楽大学の入学試験で有利になるなんて話も、聞いたことがありません。
私の知人で、吹奏楽部出身で卒業後に音楽の先生になる道を選び、晴れて母校の吹奏楽部の顧問になった方がいますが、その先生が所属していた吹奏楽部は強豪でも何でもありません。
中学・高校で一生懸命楽器を吹いていた人の多くが、卒業すれば楽器をやめてしまい、以降音楽とは一切関わりのない人生を送るのです。

吹奏楽部の猛練習の末、自ら死を選んだ高校2年生。
果たして、死ぬまで練習する必要はあったのでしょうか。

辞められない、抜けられない人へ

放課後はもちろんのこと、朝も、夜も、休日も――
長時間の練習が当たり前になっている部活動では、それが長年の「伝統」になっている例も多くあるといいます。

今回のニュースについてウェブ検索してみると、自殺した高校生について「そんなに辛いなら部活を辞めればよかったのに」という声がある一方、「そういう部活では辞めさせてもらえない」という意見も多く見受けられました。
「コンクール上位入賞」という高い目標に向かい、全員が一丸となって猛練習に励むよう強いられ、「ついていけない」と感じても辞めることすら許されない――
音楽活動をする部活において、そのような「悪習」を長年にわたって引きずっている学校が存在するという事実には、憤りを覚えます。
演奏とは表現の場であり、楽器は自己を表現するためのツールです。
音楽という芸術が秘めている本来の「楽しさ」を知らないまま、過酷な練習だけを課されるというのは、ただただ悲劇であり、理不尽というほかありません。

もしも吹奏楽部にいることが、楽器を練習することが本当に辛くて、なおかつ退部することも許されないような雰囲気なら、まずは心を許せる人に相談してみてください。
一人で抱え込むことが、一番辛いことです。
また、自分では「大丈夫」だと思っていても、先に体の方が変調をきたすこともあります。
ひどい頭痛やめまい、不眠など、「なんだかおかしいな……」と感じる体の異変があれば、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。

「吹奏楽部の練習が辛い」と思う方向けに書いた記事もありますので、ぜひそちらも読んでみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
吹奏楽部の皆さん。決して無理をせず、自分のペースを大事にしてくださいね。

ABOUT ME
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古閑らいこう
トランペット歴25年。小学校でマーチングバンド、高校で吹奏楽部、大学で学生オーケストラに所属し、トランペットを担当。現在は地域の子どもたちの指導にあたっているほか、ビッグバンドのコンサート等で年に数回演奏を披露。

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